後見の失敗事例 | 越谷 相続・遺言 相談室
失敗事例1
【以下、登場人物はすべて仮名です】
小林さん(80歳)には5人の子供がいて、奥さんは5年前に他界していました。
財産としては預金が3,000万円と自宅の土地と建物がありました。5人の兄弟は小さいころから仲が良く、ことあるごとに小林さんの自宅に家族で集まって楽しく過ごしていました。
そんな仲のよい親族が険悪な状態になったのは、小林さんが他界して相続が始まった時かからでした。
奥さんもすでに亡くなっていたので、相続人は5人の子供たちになりますが、問題となったのは、一番末の兄弟の弘一さんが若くして認知症になり、小林さんが亡くなった時には意思の疎通ができない状態にあったことでした。
本来であれば、認知症になった弘一さんに後見人が選任されなければ、遺産分割協議ができません。
しかし、一日でも早く遺産を手に入れたかった長男の貞夫さんが、後見人選任の手続きをせず、弘一さんの実印を使って遺産分割協議書を作ってしまったのです。
他の兄弟も、早く遺産が手に入るのだからと異議を挟まず遺産分割協議書に署名捺印をしてしまいました。
協議書の内容は認知症の弘一さんの取り分が少なく、他の4人に多く分配する内容になっていました。
この遺産分割協議書の内容に基づいて遺産は分配され、その時はトラブルはなかったのですが、しばらくして二男の洋介さんが突然長男の貞夫さんに言い出したのです。
「貞夫兄さんは弘一が認知症なのをいいことに、本来やらなければいけない後見人選任の手続きをせずに勝手に遺産を分けたんだ!この遺産分割協議書は無効だ!!」
実は洋介さんは貞夫さんの分割協議書案には納得がいっていませんでした。
預金は貞夫さんを除いた兄弟で分けることになっていましたが、小林さんの土地と建物は貞夫さんが相続する内容だったからです。
それを洋介さんの奥さんが、ことあるごとに洋介さんに焚き付けて、とうとう洋介さんも貞夫さんに対する不満として爆発してしまったのです。
弘一さんの後見人選任手続きをしなかったという貞夫さんが犯してしまった手続きの不備を、洋介さんはとことん追求するつもりです。
もし遺産分割協議の時にちゃんと後見制度を利用していれば、洋介さんに追及されることはなかったことでしょう。
少なくとも勝手に遺産分割協議を進めてしまう前に、専門家に相談しておくべきだったのではないでしょうか。
失敗事例2
【以下、登場人物はすべて仮名です】
佐山さんは若い時に事業を興し、奥さんとともに40年以上も一生懸命に働いて多くの資産を築きました。
しかし奥さんとの間には子供がおらず、将来に不安を抱いていました。
そんななか任意後見制度の存在を知り、健康なうちに信頼を置ける人に自分の財産の管理を頼むことができると、とても興味を持つようになりました。
佐山さんには長い間何かと面倒を見てきた、同業者で自分より一回り若い小島さんという後輩がいました。
小島さんは専門家ではありませんでしたが、法律にも詳しく、なにより佐山さんの考えを一番わかっているよき理解者でありました。
佐山さんは是非とも任意後見制度を利用して、自分の判断能力が衰えた時に小島さんに支援してもらいたいと考え、小島さんもこれまで何かと世話になってきた佐山さんへの恩返しになると思い、両者で任意後見契約を結ぶことにしました。
小島さんは一生懸命専門書を読み込み、何とか任意後見契約書の文案を作成しましたが、司法書士などの法律の専門家に相談することはありませんでした。
公証役場に二人で出向き、公正証書で任意後見契約書を作成し、晴れて任意後見契約を締結することができました。
それからちょうど20年の歳月が流れ、佐山さんは妻を亡くし、自身も80歳をこえて、いよいよ認知症の診断が下されてしまいました。
そこで小島さんは「長い間佐山さんから頂いたご恩を返すことができる」と家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立を行い、任意後見契約を発効する手続きに入りました。
後見監督人が選任され、小島さんは佐山さんの任意後見人として代理権を行使することができるようになりました。
まずは佐山さんの入所する施設への支払いをしなければなりません。
小島さんは佐山さんの銀行口座から任意後見人としてお金を引出して、施設に支払いをしようとしました。
しかし銀行の窓口の女性から聞かされた言葉に、小島さんは度肝を抜いてしまいました。
「お客様、ご本人様からお客様が与えらてれいる代理権では、預金を引き出すことはできません。」
小島さんは手続きのために提出した、後見登記事項証明書の代理権目録の部分を窓口担当者に突き付けられました。
「これのどこに問題があるんですか!ここに『本人の生活全般に関する事務の全部』って書いてあるじゃないですか。本人の生活全般に関する事務って、銀行預金の引き出しも含まれますよね?これじゃ預金は引き出せないんですか!?」
窓口担当者はいたって冷静に言いました。「このような記載では、その代理権の範囲が身上監護事項だけにとどまるのか、財産管理事項にまで及ぶのかが明確ではありません。このような曖昧な代理権目録の記載内容では、本人様の銀行預金の管理についての代理権が与えられているかについて疑義が残ります。よって当行ではこの代理権目録で取引をすることはできかねます。」
任意後見契約によって代理権を付与するためには、将来のリスクに備えて、一つ一つできる限り具体的に記載しなければなりません。
小島さんは佐山さんのために一生懸命文献を読み、任意後見契約の文案を考えたのでしょう。しかしそこであと一歩、専門家のアドバイスに耳を傾けるべきだったのです。
このような事態になってしまうと、本人のために必要だから、代理権を付与したのにも関わらず、意図していた法律行為を行うことができなくなってしまい、結局本人の保護に欠けることになります。
既存の任意後見契約を解除し、改めて佐山さんと任意後見契約を締結し直そうとしても、すでに佐山さんは認知症にかかっており、契約をする判断能力はありません。
このような事態にならないようにするためにも、成年後見の専門家である司法書士に一度相談されることをご検討ください。