経営承継円滑化法 | 越谷 相続・遺言 相談室
事業承継の形態が多様化している昨今において、「承継の円滑化」を促進することを通じて、中小企業や小規模事業者の持続的発展を目的として、平成20年10月1日に「中小企業における経営の円滑化に関する法律」が施行されました。
(但し、遺留分に関する民法の特例は平成21年3月1日より施行)
相続税の納税猶予
この法律の施行を踏まえ、平成21年度税制改正で事業の後継者を対象とした「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」が創設されました。
この制度の主な特長
1)自社株の相続が発生した場面で、相続税の納税が一定の割合で猶予されます(猶予であって相続の時点で免除されるわけではありません。最終的に免除されるのは後継者が亡くなる時であるため、長い期間がかかります)。
これにより、後継者は大幅に相続税を減額できます。
(※平成27年1月より、親族以外の後継者の場合にも制度の対象になりました。)
2)子供などの後継者が死亡した場合の次の相続の自社株式の評価は、その相続時点の時価となりますので、将来株価が下落した場合には相続税を減額することができます。
3)後継者は自分が死亡するまで株式を保有して会社の代表を続けなければならない、制度を申請してから「最初の5年間は従業員の人員を8割以上に維持」しなければならない(※平成27年1月より「従業員の人員を5年間の平均で8割以上」に緩和)等の要件がこの制度にはあります。それらが満たせない場合には納税猶予打ち切りとなり、後日多額の税負担が発生する可能性もあるため、注意が必要です。
この制度の適用をお考えになる場合には、後継者になる方が慎重な検討をした上での申請が必要です。
遺留分に関する民法の特例
一定の要件を満たす後継者のいる企業については、先代経営者の遺留分権利者全員によって次の合意をし、所要の手続きを経ることによって以下の遺留分に関する民法の特例を受けることができます。
1)の除外合意と2)の固定合意の双方又はいずれか一方の合意を必ずする必要があります。
これらの合意をした場合には、それと併せて3)の付随合意をすることができます。
1)先代経営者から後継者が贈与を受けた株式等を、遺留分算定の基礎財産から除外する合意をすることができます。(除外合意)
⇒この合意ができれば、後継者に自社株式を集中しても他の相続人からの遺留分減殺請求をされることがなく、株式の分散を防ぐことができます。これにより後継者の安定した経営権を確保することができるのです。
2)先代経営者から後継者が贈与を受けた株式等の評価額を、あらかじめ固定しておく合意をすることができます。(固定合意)
⇒現行の制度においては、自社株式の生前贈与を受けた後継者は、贈与後自身で会社の業績を伸ばし、会社の株式価値が増大した場合であっても、遺留分の基礎財産を算定する際には、相続開始時点の評価額で遺留分を計算することになります。
つまり、自社株式の贈与を受けたのちに後継者が一生懸命株式価値を増やしたとしても、その増加した分まで遺留分算定の対象になってしまうということなのです。
そこで遺留分算定に際し、生前贈与で取得した株式の価額をあらかじめその合意の時点での評価額で固定できる制度を創設することで、後継者が株式価値を増加させたとしても、その増加分を遺留分で取られないようにしたのです。
つまり、株式価値を上昇させる努力が無駄になる心配がなくなることで、後継者の経営意欲を促進できるようになったのです。
なお、もし株価が下落した場合には後継者に不利な合意になってしまうので、この制度を利用するかどうかには慎重な検討が必要です。
3)さらに後継者が贈与を受けた株式等以外の財産や後継者ではない者が贈与を受けた財産について、遺留分算定の基礎財産から除外する合意をすることができます。(付随合意)
⇒後継者ではない相続人への生前贈与等について遺留分算定の基礎財産としないことを追加で合意することにより、後継者ではない相続人への生前贈与等についても遺留分減殺請求をされることがなくなり、後継者と後継者ではない相続人間の贈与のバランスをとることで推定相続人同士の合意の形成が容易になることが期待されます。
民法特例の手続き
この「遺留分に関する民法の特例」の合意をしたときには、当事者の間で合意書を作成するのみでは有効とはなりません。
合意をした時から1ヶ月以内に申請書を提出して経済産業大臣に確認申請を行い、その確認を受けた日から1ヶ月以内に家庭裁判所に許可を申し立てなければならないのです。
そして家庭裁判所の許可により合意の効力が生ずることになります。